デザイン学科の1年から3年生までの学生全員が1年間の成果を発表する場、それがGAKUTEN。2月7〜11日まで学内にて力作が展示された。2月9日(土)には、GAKUTEN開催にあたり、特別講演会が開催され、インテリア分野から宇賀敏夫氏、グラフィックデザイン分野からは水谷孝次氏をそれぞれ講師にお招きして講演が行われた。
こだわりを持ち続けてこそ実現する
人と環境にフィットするデザイン
宇賀敏夫氏は、千葉大学短期大学木材工芸科卒業後、東洋プライウッドに入社し、建材のデザインに関わる。その後イタリア留学を経て、22年間企業で活躍後、独立しフリーに。有限会社U・G・Aデザインプランニングを主宰し、椅子をはじめ、家具や照明など,インテリアプロダクトデザインの第一線を歩み、数々のGマーク取得デザインを世に送り出してきた。中でも椅子のデザインは秀逸である。宇賀氏の椅子に対するあくなき探求心は、さらなる学びへと向かわせ、67歳で名古屋工業大学大学院に入学。4年半後にはみごと博士号を取得し、最高齢者の学位の取得は、大きな話題となった。とにかく宇賀氏の勤勉な姿勢には頭が下がると、本学講師でもあり、宇賀氏の助手を務めた経験のある田川講師も敬慕する。現在はこれまでの研究を元にした椅子の商品化に向けての取り組みに余念がない。
宇賀氏によれば、デザインがグローバル化され、かつては図案化といって非常に具体的かつ狭義であったが、最近では営業企画、設計、生産技術、製造まで商品化するまでの、どのセクションにもデザインが関わり、非常に重要なポジションとなってきたという。宇賀氏は自身の経験から、自分の目標は絶対に曲げないで欲しいと訴える。そのためにはさまざまなプロセスを経験することが必要であるとアピールした。
宇賀氏が手がけてきた多くの作品を紹介しながら、それぞれの制作にまつわるエピソードについて話された。なかでも事務用回転椅子「ペトゥル」は、約3年がかりでデザイン開発を行い、Gマーク商品に選定され、何万台と売れた傑作品。この回転椅子を開発した当時(平成4年)は、ドイツの油圧ガス機構での構造が主流だったが、「ペトゥル」は人体の動きになるべくフレキシブルに対応できるよう、強靭で柔軟性のあるナイロン樹脂を使用した。他にも、学校の椅子や県庁の議場の椅子、病院のロビーの椅子など、人間と周りの環境と機能性とを考え、多くの課題を乗り越えながら商品化を実現してきた。結局のところ、デザインは人に使ってもらってこそ価値のあるものであるから、より多くの人から信頼を得ることが大切。そのためにもさまざまな人とのコミュニケーションは基本であるという。デザインには人が集まる要素が必要。従っていいデザインにはいい因子が整っているという。椅子に始まり、椅子に終わらず、いまだ、「夢の椅子」づくりにチャレンジし続ける宇賀氏の情熱に、心を動かされた貴重な講演であった。
人を、社会を幸せにする
コミュニケーションデザインを追求
第2部では、グラフィックデザイナーの水谷孝次氏にご登壇いただき、自身の経験や作品を紹介しながら人を幸せにするデザインについて熱く語っていただいた。水谷氏がデザインをはじめたきっかけは、何かを変えたい、世の中を良くしたいという思いからであるという。名古屋市出身の水谷氏は、35年前に上京し、日本デザインセンターで数々の実績を積んだ後、独立。水谷事務所を設立後もデザイナーとして、アートディレクターとして、多くの印象的なデザインを残し、数々の受賞歴を持つ。資生堂、ワコール、オンワード、ANAなど日本を代表する企業のポスターを次々と手がけ、その大胆な発想と表現でセールスプロモーションを成功へと導いた。広告ポスターは0.3秒しか人の目に留まらない、その中で人の記憶に残すためには強いインパクトが必要というのが水谷氏のスタンス。常に新鮮な驚きを与え、人の心を強くとらえたオリジナリティと生命感にあふれたデザイン、リアリティにこだわったデザインは、次々と広告のタイトルを総なめにした。その後、パッケージデザインや、美術館の広告、神戸の震災のポスターなど社会的な広告も手がけた。バブルのまっただ中、水谷氏も忙しく多くの仕事をこなしてきたが、本当にしたい仕事は何かを追求し始め、葛藤もあった。そして行き着いたのが「Merry Project(メリープロジェクト)」である。デザインを通じて本当に伝えたいこと、世の中に一番必要なメッセージはなんだろうと考え、人と人とのコミュニケーションをキーワードに、「笑顔のコミュニケーション」をコンセプトにした「Merry Project」を立ち上げた。最初に開催したのは、原宿のラフォーレ全館での笑顔の展覧会。「あなたにとってmerryとはなんですか」という質問の答えと笑顔の写真で全館が飾られた。その後、震災後の神戸や、テロの被害を受けたニューヨークでも、Merry Projectを開催。その一環として行ったゴミ拾いプロジェクトでは、多くの若者や地域を巻き込むことにも成功。水谷氏はこれらの経験を通じて、社会や企業とうまく関係を持ちながら、コミュニケーションデザインを実現していくことの大切さを訴える。水谷氏にとってMerry Projectは次の時代に向かっての大きなチャレンジであり、いまだ「ing」である。「デザインを通じて人を幸せにしたい」とう水谷氏の熱い想いは確実に実現しつつある。 |