石川 清 教授・造形学部長・建築学科長

石川 清 教授・造形学部長・建築学科長
西洋建築史学、建築意匠学
- イシカワ キヨシ
- 東京工業大学大学院博士課程単位取得満期退学、博士(工学)。博士課程在学時にイタリア政府給費奨学生としてフィレンツェ大学に留学。15世紀初期ルネサンス建築史を専攻する。著者に『ビジュアル版西洋建築史』、『都市史図集』、『住まいの建築学』など。
東京お台場にある日本科学未来館、こけら落としの展覧会「ダ・ヴィンチとルネサンスの発明家たち展」を監修するなど、広い分野で活躍している石川先生。日本が誇るイタリア・ルネサンス建築史の第一人者です。また、NTTデジタルシアター・プロジェクトの要請により、ヴァーチャルリアリティを駆使したルネサンス建築史・絵画史のVRレクチャーを監修。イタリアの発掘・復元調査にも参加・協力されています。精力的に活動する石川教授の原動力を、西洋建築史への思いや復元調査での体験、イタリア留学のこぼれ話などを通して探ってみましょう。
- 建築史の研究を通して先生が達成したいことは何でしょうか?
- 西洋建築史の研究者は、研究の成果を専門家に限定せず、もっと広く紹介し、一般の方々にもその面白さを伝えるべきだと考えます。つまり建築史に対する関心の裾野を広げたいわけです。そのためには建築遺産に綱を張って立ち入り禁止にして大事に保存するだけでなく、文化資源としての再活用を目指したいんです。単に教育に活用するだけでなく、観光資源として積極的に利用していくことも過去から学び、それを未来につなげる大事な役割だと思うのです。これは環境倫理の面でも大事です。建築物を建てることは、人間にとってプラスですが、環境にとっては必ずマイナスなんです。つまり悪であることを前提としなければならない。アカウンタビリティ、つまり説明責任が問われる時代になります。建築文化遺産を過去のものとしてフリージングしてしまっても意味がない。それでは学問が自己閉塞してしまいますから。歴史的文脈を受容できるシステムとして文化遺産は積極的に活用されるべきです。そのような意味で「建築文化資源学」を提唱し、各界に働きかけていきたいと思っています。
- 確かにヨーロッパでは歴史が生活と隣合わせで、“過去”が有効に利用されていますよね。
- それは言えますね。私は大学院の博士課程在学中、イタリア政府給費奨学生としてフィレンツェ大学へ3年間留学していました。具体例としてそのときのお話をしましょう。友人のひとりが15世紀の建物に住んでまして。部屋が雨漏りするというんで、漆喰を塗り直すことになったんです。で、工事に取りかかったところ…、出てきちゃったんです。いや死体とかじゃなくて(笑)、ルネサンス期のフレスコ画が。そういった歴史的遺物は学問的に貴重なので、政府の文化財保護局に届け出しなくちゃいけないんですよ。みんな家を借りる時には、そういった契約を結ぶんです。いえ、別に寄贈しろとかいうんではないんですが、ただ出てきたものに関しては、所有者の責任で費用負担も含めて修復する義務が生じるんです。で、その友人どうしたと思います?また壁を塗り込めちゃった。何もなかったことにしようと。これ笑い話じゃなくて、イタリアでは日常茶飯事じゃないかな。とにかく歴史的なものはごろごろしているわけです。また、景観保護も徹底しています。また別の友人が、ある時屋上でパーティを開いた。つい調子にのってカラフルなビーチ・パラソルを出したんですね。そしたら、たちまち電話がかかってきた。「お宅のパラソルがミケランジェロ広場から丸見えだ。観光客が多い場所なのにけしからん。統一的景観を損なうから、今すぐ引っ込めろ」と言うわけです。さすがは観光立国。こういう日々の努力あってこそ、レンガの色見本みたいな街の景観を保てるんでしょうね。
- こうしたさまざまなご経験や専門を活かして、フィレンツェ、サン・マルコ修道院をヴァーチャルリアリティ空間の中に再現したVRレクチャーを監修されたそうですが。
- ええ、ルネサンスといえば15世紀ですから、今から約500年以上前の建物です。それを最新の研究に基づき、フィレンツェにあるサン・マルコ修道院を建築当初のままにスーパーコンピュータの大画面で再現しました。鳥のさえずる中庭に出たり、フレスコ画が描かれた食堂へ行ったり、窓や扉を開いていろんな場所に行けます。2階へ続く階段を上れば、フラ・アンジェリコの傑作「受胎告知」が目に飛び込んでくる。そこにはちゃんと修道士たちの生活もあって、まさにルネサンス期の修道院の中に身を置いているような体験ができる。ネットワーク・ヴァーチャルリアリティ技術を使って、知識や経験を豊かにするのが狙いです。しかし、居ながらにして現地の空間体験ができるというだけでは、コンテンツ監修サイドとしてはあまり意味がない。現在の建物ではなく、今では見ることができない建設当初の建物を建設記録から再現することに徹したわけです。コンピュータによるヴァーチャルリアリティの最先端を示したい慶応大学SFCと、意義を付与したいコンテンツ・サイドとでは立場と目的が異なってしばしば議論になりましたが、最終的にはその議論が財産になりました。
- そのほかにどのような活動をされていますか?
- 数年前に宇宙飛行士の毛利衛さんが館長をされている日本科学未来館で開催された「ダ・ヴィンチとルネサンスの発明家たち展」を監修しました。フィレンツェを皮切りに、パリ、ロンドンなど世界の大都市を巡回した展覧会で、フィレンツェで見て、気に入っていたものでした。これからも西洋の建築に関連した企画展や国際会議を監修する仕事は増えていくと思います。

サン・マルコ修道院のヴァーチャルリアリティ空間
